2016年11月27日

沖縄「土人」発言(1)「機動隊員によるレイシズムの問題とは」

 今回はここ数週間問題になっている“沖縄「土人」発言”問題について、レイシズムとの関連で考えたいと思います。

1、事件の概要(メディアの報道など)

 まず、事件の概要を振り返ります。

a、ヘリパッド工事について

 現在、沖縄県東村高江地区では米軍専用施設・北部訓練場で、ヘリコプター着陸帯の建設工事が行われています。

 もともとヘリパッド建設工事は1995年の米兵による少女暴行事件をきっかけにした、沖縄の基地負担軽減を目指す1996年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告において、東村と国頭村をまたぐ沖縄北部訓練場の返還が盛り込まれたことが発端です。返還とともに残った区域に建設されることになったヘリパッドが東村高江地区を取り囲むように図となっており、完成すると騒音や事故の危険から住民の生活が脅かされることになります。

 この工事は2007年から行われていますが、地元、高江地区の住民の根強い反対運動もあり未だに工事が続けられています。高江村は約70世帯150人の集落で、周囲の亜熱帯の照葉樹の山林(「ヤンバルの森」)には様々な固有種・絶滅危惧種の生物が存在しています。(そのためノグチゲラ(国の天然記念物)の営巣時期の3〜6月は作業中断となります。)

 沖縄防衛局は今年(2016年)の7月22日から工事を再開させ、反対運動を押さえ込むために大量の機動隊員を全国から動員し反対は住民を暴力で排除しています。

 実際に現場では抵抗する市民にけが人が出るほど緊迫したものになっています。
高江橋を車で封鎖、座り込み 機動隊が排除、けが人も ヘリパッド反対運動 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース http://ryukyushimpo.jp/news/entry-341732.html

高江ゲート前 市民、夜通し警戒 抗議継続、けが人も - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321157.html

 今回の「土人」発言事件はそのような緊迫した現場でおきました。


b、「土人」発言

 「土人」発言は10月18日の午前中に建設に抗議する市民に対して、現場の機動隊員が発言しました。その衝撃的な様子が動画に残されています。
https://www.youtube.com/watch?v=zm6NbNKIayk&feature=youtu.be

 この事件に関していち早く発信したのは高江の現場で抗議をしていた芥川賞作家の目取真俊氏です。目取真氏は18日の自身のブログでこの事件を発信しています。
沖縄県民を「土人」呼ばわりする大阪府警の機動隊員 海鳴りの島から 沖縄・ヤンバルより−目取真俊
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/93cd24d10a5c21f3dde2c5aac97e2eec

 次の日(10月19日)の朝刊では沖縄の地元紙「琉球新報」と「沖縄タイムス」がこの事件を報じました。
 同日午前9時45分ごろ、目取真さんら市民数人がN1ゲートそばで、沖縄防衛局が市民の出入りを防ぐため設置したフェンス越しに工事用トラックの台数を確認していた。その際、機動隊員3人がフェンスから離れるよう指示した際、1人が「触るなクソ。どこつかんどんじゃボケ。土人が」と発言した。市民側は発言者を大阪府警の機動隊員とみている。機動隊員の発言について、県警は本紙の取材に「現時点で把握していない」としている。
「どこつかんどんじゃボケ。土人が」 機動隊員が沖縄で暴言 ヘリパッド反対の芥川賞作家に|沖縄タイムス+プラス ニュース|沖縄タイムス+プラス http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/67175

 また、18日に別の機動隊員が「だまれ、こら、シナ人」と発言したことも確認されています。

 沖縄県警の調べによるこれらの発言をした機動隊員は二人とも大阪府警から派遣された20代の隊員であり、二人とも事件が起きて即日大阪へ戻っています。

 その後、大阪府警は不適切な発言で警察の信用を失墜させたなどとして、男性巡査部長(29)と男性巡査長(26)をそれぞれ戒告の懲戒処分としました。大阪府警は「県民を侮辱する意図はなかったが、個人的発言が許されない部隊活動での軽率な発言で社会的反響も大きく、厳正に処分した」とコメントしています。
【大阪府警機動隊員の差別的発言】巡査部長ら2人を懲戒処分 大阪府警「県民侮辱の意図ないが軽率な発言、社会的影響」 - 産経ニュース http://www.sankei.com/west/news/161021/wst1610210068-n1.html



2、「土人」発言のもつ意味

 あまりにも衝撃的な映像が残されていた事もありこの問題は大きくニュースで取り上げられました。また、何より「土人」という言葉のわかりやすい差別性もこの事件が大きな社会問題化した事につながったと言えます。

 しかし、その一方で機動隊員がこのような発言をした重大さや深刻さについてはあまり触れられていません。

 今回は機動隊員による「土人」発言そのものをレイシズムの問題として検討したいと思います。


a、人種差別撤廃条約の観点から

 今回、「土人」発言を行ったのは一般の市民ではなく公人たる機動隊員でした。

 一般の市民による差別ではなく、公人が差別を行ったところに、問題の決定的な重要性があります。この「土人」発言は日本も結んでいる人種差別撤廃条約が禁止している「人種差別」(レイシズム)に該当するだけでありません。国・自治体・公務員・政治家など公人の差別を特別に禁止している条約第4条(c)に明白に違反します。
第4条 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。
(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと

 今回の事件のように、この(c)に該当するレイシズムが問題なのは、公人による差別は決定的な社会的影響力を持つからです。具体的には機動隊員という「公人」によるレイシズムは普通の市民が行うレイシズムよりもはるかに強力に市民社会のレイシズムに正当性を与え、差別煽動効果を発揮するからです。(この点はARICの政治家レイシズムデータベースの趣旨文でも言及しています。 http://antiracism-info.com/database_home/message

 このことに関してフランスのレイシズム研究者であるミシェル・ヴィヴィオルカは次のように述べています。
 より広い視点から言えば、暴力が増大するかどうかは、偏見や差別といった形態とは異なり、社会全体の条件に左右される。なぜなら水面下で影響を及ぼし、労働や住宅市場において当局に許容される制度的レイシズムとは異なり、暴力は一般社会からの強い批判や、政府や国家の弾圧の対象とされるためである。よって、その暴力が増えるかどうかは、政治制度に強く規定される。したがってマックス・ウェーバーの有名な表現を借りれば、レイシズムの暴力は何よりもまず、正当な暴力行使を独占する国家によって規定されるのである。それゆえ国家は暴力の発生に必然的に関与するし、また国家が暴力にどう対応するかによって、レイシズムの暴力の増大や現象が決まる以上、それに責任を負っている。(『レイシズムの変貌』明石書店、2007年、84〜85頁)

 つまり、国家がレイシズム暴力を実効的に取り締まるのか、放置するのかによって社会全体におけるレイシズムの作用の仕方が決まってくると言えます。今回のように国家権力である機動隊員が高江の現場で実際に暴力を振るい、レイシズムを行ったことは必然的に社会における沖縄の人たちへのレイシズムを増幅させるといるでしょう。


b、「生きるべきもの/死ぬべきもの」を選別するレイシズム

 今回の「土人」発言で問題なのはただ「国又は地方の公の当局又は機関」が差別をしたという一般的な問題だけではなく、その差別が行われた個別具体的な状況です。

 機動隊員が差別発言をしたのはまさに全国から集められた機動隊員が沖縄の住民を暴力を持って排除するその場所で行われました。

 以前ARICブログ「相模原障がい者殺傷事件をヘイトクライムと考えることの意義」http://antiracism-info.sblo.jp/article/176261876.html で書いた通り、レイシズムは「生きるべきもの/死ぬべきもの」を分断する恐ろしい機能を果たします。

 「思想・世界観としてのレイシズム(人種・民族差別に伴う人種主義)は生物学的発想を伴います。つまりレイシズムは人間を、「ヒト」=人口という生物学的な集団としての「種」ととらえます。そのうえでレイシズムは同じ「ヒト」=人口という種を、「優れた種」「劣った種」などいう下位の「種」=人口に切り分けるのです。これが@人種・民族的集団(と思われてしまう人を含む)へのA不平等というレイシズム(民族差別)と深く結びついているのです。」

 今回のように機動隊員(=国)が暴力を振るう現場では、(沖縄という「他者」への)暴力を正当化するためにレイシズム(抗議するものを「他人種」としてくくり、「人種化された社会」を危機に晒す「病原体」として扱う)が用いられると言えます。

このレイシズムの特徴を沖縄基地問題を撮り続けてきた映画監督の三上知恵氏は自身のブログで的確に言い表しています。
 「中国が攻めてくるという国家の危機を理解せず、国防に非協力的で、自分優先でワーワー言うだけの反対派というグループは、自己中で公共心のない下等な生き物だ。沖縄にはその手が多く、問題だ」と。そんな沖縄県民に対する評価が警察内部で共有されているからこそ、あの機動隊員は悪びれずに暴言を吐いたのだ。
ヒロジさん・文子おばあへの弾圧と土人発言│三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記 | マガジン9 #maga9 http://www.magazine9.jp/article/mikami/30787/
 

 そして今回はそのようなレイシズムが暴力が蔓延する現場で起きました。

 今回の事件を通して沖縄の人々へのレイシズムが増幅するのではないか、高江の現場で今よりもさらにひどい暴力にまで発展するのではないか。それだけが気がかりで仕方ありません。[1]
 

 次回はそもそも「土人」発言が「差別事件」として扱われたのかに関して考えたいと思います。

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[1]実際には11月3日には大阪で「機動隊員を偏向報道から護る」ことを目的としたヘイトデモが行われました。その中にはこれまでARICで批判してきた福岡県行橋市の議員である小坪慎也の姿も確認できました。
posted by 反レイシズム情報センター(ARIC) at 10:36| Comment(0) | レイシズム情勢
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