2016年10月28日

〔政治家のレイシズム利用〕ケース1 和田政宗 参議院議員 第6回

 今回も宮城県選出の参議院議員、和田政宗氏の政治家レイシズムを取り上げたいと思います。


◯「行動する保守運動」の集会へのビデオメッセージ

 和田氏は2016年4月10日に仙台市宮城野区中央市民センターで行われた「テロリスト安重根の碑案内板撤去を求める国民集会!」(http://www.koudouhosyu.info/touhoku/scheduler.cgi?mode=view&no=68 )に15分ほどのビデオメッセージを送っています。
(動画はこちらから https://www.youtube.com/watch?v=DVJZJYr-vdw

 ARICではこの集会における和田氏の発言を「歴史否定」を含むレイシズムとして政治家レイシズムデータベースに記録しています。

〔抜粋〕 「「テロ」を許さないと言うことに関しましては、みなさんご存じの通り、安重根が伊藤博文公を撃ってしまったがために、朝鮮併合が進んだということは、これ紛れもない事実でございます。伊藤博文公は、「もう朝鮮半島併合してくれって言っているけれども、併合したらもう重荷になるからそんなのはやめましょう。あそこは緩衝地帯であるからロシアに対してもしっかりと対応できる。中国大陸の軍閥に対しても対応できる。だからあそこは緩衝地帯で、独立国であることが重要なんです」というふうに言っていたらですね、バーンと撃っちゃったんですね。〔中略〕すなわち、先の大東亜戦争に向かう道も、安重根が頓珍漢なことをやってしまったがために、日本がずるずる引き込まれていったという側面もありますので、こういった事実もしっかり語り継いでいかなければならないなというふうに思っております。」
(全文はこちらから http://antiracism-info.com/archives/database/126708


 この集会の主催者は「テロを許さない!東北地方保守の会」という団体であり、団体の中心人物は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の副会長兼宮城支部長の菊地内記(@kikuchi_naiki)という人物です。

 また集会の中ではその他にも「日本女性の会 そよ風」会長の涼風由喜子や、在特会東京支部の堀切笹美、瀬戸弘幸など極右団体関係者の参加が確認されています。

 この集会で問題にされているのは宮城県栗原市の東北道若柳金成インター出入口付近にある「安重根記念碑の案内板」です。

 安重根の記念碑があるのは宮城県栗原市にある大林寺という曹洞宗系の寺院です。安重根が獄中にいた時に看守を務め安と親交を結んだ千葉十七に贈った文を刻んだ記念碑がありその記念碑の案内板が攻撃の対象になりました。

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(産経新聞 2015年5月26日)

 和田氏は2015年2月4日の参議院予算会議で東北道に設置されている記念碑の案内板について質問しています。

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(河北新報2015年2月8日)

 和田氏の質疑の後、100件を越す抗議の電話が宮城県の観光課に寄せられるなど、この質疑と報道が発端となり案内板をターゲットとした極右・差別団体における撤去運動がはじまりました。集会もその運動の一つだと言えます。彼らは宮城県に質問状を出すなどの抗議活動を行っています。

 なお、村井嘉浩宮城県知事はこの案内板について「問題ではないか」という記者の問いに「そういう切り口で案内板を否定するのは日韓友好にマイナス」と撤去しない考えを示しています。(河北新報2015年6月2日)


◯批判の視角

 ヘイトスピーチを繰り返す極右・差別団体の集会に政治家がビデオメッセージを送ることは(後で見るように)欧米ならば政治家生命が絶たれるほど大きなリスクになります。そうでなくてもヘイトスピーチを繰り返す反社会的団体と関係があること自体が「不祥事」として政治家にとってマイナスの影響を持つと言えます。[1]

 このような観点からネット上でもまとめサイトが作られるなど一部で和田氏の行動への批判が見られました。(http://togetter.com/li/961826

 しかし今回の事件を政治家の「不祥事」という観点でなく「レイシズム」の問題として批判するとき、具体的にどのような点が問題であり、どのように和田氏を批判すればいいのかをはっきりさせる必要があります。後で見るように和田氏は様々な屁理屈を並べ「差別である」という批判を回避しようとします。具体的に差別の問題として今回の事件を批判し、和田氏が言い逃れできないように正面から追い詰めなければいけません。

 そこで今回は以下の3点に分けてこの事件を考えたいと思います。
@政治家が極右団体にメッセージを送ることについての問題
 (=差別団体と政治家のつながり、レイシズムの政治空間への侵入)
A和田氏のメッセージ自体の問題
 (=市民空間と政治空間を自由に横断する「歴史否定」の問題、「歴史否定」批判)
Bその後の和田氏の対応の問題
 (=政治家の差別煽動の否定と追求する側の問題)


@極右団体と政治家の関係

 今回の和田氏の事例のような極右団体と政治家のつながりは何が問題なのでしょうか。

 人種差別撤廃条約の第2条1では「締約国は、@人種差別を非難し、Aあらゆる形態の人種差別を撤廃し、すべての人種間の理解を促進する政策を、すべての適当な方法により遅滞なく、遂行する義務を負う」としており、続く(b)項において「各締約国は、いかなる個人や団体による人種差別も後援せず、擁護・支持しない義務を負う」とあります。この条文では国や行政機関が人種差別を行うことを禁止し、そのために差別団体を「後援、擁護・支持」しないことを求めています。

 また、同条約第4条では@人種的優越を説く思想・理論に基づき、人種的憎悪・差別を正当化・助長する宣伝や団体を非難する義務とA人種差別の煽動・行為を目的とする迅速で積極的な措置をとる義務を締約国に課しています。その目的を実行するために(a)項では「人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供」も法律で処罰する義務であることを締約国は宣言しなければいけません。

 他に(c)では「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと」を求めています。

 最後の(c)項が求められているのは前回のブログ(http://antiracism-info.sblo.jp/article/177131044.html )でも言及した通り「一般的に国や行政が行う差別や政治家はじめとした公人によるレイシズムは、市民によるヘイトスピーチよりはるかに強力に、市民社会のレイシズムに正当性を与え、差別煽動効果を発揮する」からです。

 今回の和田氏の場合、先ほどあげた人種差別撤廃条約に照らすと政治家が極右・差別団体に対してビデオメッセージを送る行為が、「人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供」であるということができます。

 そして、政治家という公人が行うそのような「援助」自体が結果的に差別団体が行う差別行為を「後援、擁護・支持」し、差別団体の差別行為に正当性を与えることになり、差別煽動効果を強めると言えます。

 これに対し「反レイシズム」規範が存在する欧米では極右・差別団体との関係を疑われるだけで社会的な批判を集めます。

 アメリカ大統領選挙の共和党予備選挙において白人至上主義団体・KKK(クー・クラックス・クラン)の元最高幹部がドナルド・トランプ氏への支持を表明したことに対してトランプ氏が“否定しなかった”ことに社会的な非難が集まりました。このニュースで注目すべきはトランプ氏が同じ大統領候補の政治家からも多くの批判を受けたことです。当時、指名争いをしていたテッド・クルーズ上院議員は「人種差別が間違っていることや、KKKが許しがたい団体であることに異論はないはずだ」とツイート。ジョン・ケーシック・オハイオ州知事もツイッターで「米国内に憎悪団体の居場所はない」と強調しています。[2]
(「KKK元幹部が「支持」表明 トランプ氏の対応に非難集中」  http://www.cnn.co.jp/usa/35078660.html cnn_co_jp 2016年2月29日より)

 また、2014年には高市早苗総務大臣(当時)と稲田朋美自民党政調会長(当時)が日本のネオナチ団体と写真を撮っていたことが国際的な問題になりました。この時も海外メディアから極右・差別団体であるネオナチとの“関係”を詳しく追求されました。
(「内閣改造で起用の2議員、ネオナチ団体との関係を否定」 http://www.afpbb.com/articles/-/3025524 AFPBB News 2014年9月10日より)

 これらの事件は日本における“差別フリー”状況と欧米における差別が社会的に規制されている状況との違いを端的に示すものでしょう。

 一番決定的な違いは「反レイシズム」規範が存在する欧米においては(形式上)「政治空間」から差別が排除されていることです。具体的には極右・差別団体が政治家とつながることを規制しています。ドイツやベルギーでは極右政党・団体の非合法化や下部組織の規制による封じ込めなどの法的な制度や判決で極右・差別団体の「政治空間」からの締め出しを行っています。[3]

 アメリカのように極右・差別団体の結社の自由は認めていても先ほどのトランプ氏のように極右団体とのつながりが社会的な批判となり政治的なリスクになります。なので通常政治家は極右・差別団体と関係ないことを証明しないといけません。しかし、トランプ氏の場合、当初KKKの元最高幹部からの支持を否定せず、同時にはっきりとした態度を示しませんでした。最終的にトランプ氏は多くの批判を受けてKKK元最高幹部からの支持を拒否しましたが、トランプ氏はこのように「反レイシズム」規範が存在するアメリカにおいてアンチ「反レイシズム」の姿勢を見せることで「票」を集めようとしていたと言えます。[4]

 つまり「市民社会」レベルの差別が「政治空間」に入り込めないように社会的な規制がかかっており、差別が容易に「市民社会」と「政治空間」の間の壁を乗り越えることはできません。

 一方、日本においては和田氏のように政治家が極右団体と懇意にすることに対して社会的批判も全くなく、いとも簡単に「市民社会」の差別が「政治空間」に入り込むことが可能であると言えます。

 そのような意味でも和田氏が極右・差別団体にビデオメッセージを送った事実は日本における“差別フリー”状況を象徴するものだと言えます。

 次回は残りのAとBの点について和田氏の行動の問題点を考えていきたいと思います。


_________________________________

[1]稲田防衛相の控訴棄却「在特会と近い」週刊誌報道:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJBC4FCNJBCPTIL00R.html
「在特会と近い関係にあるかのような記事で名誉を傷つけられたとして、稲田朋美防衛相が週刊誌「サンデー毎日」の発行元だった毎日新聞社に慰謝料など550万円と謝罪記事の掲載を求めた」とあるように反差別規範がない日本でも極右・政治団体と政治家の癒着が「不祥事」として問題化してきていることがわかります。

[2]ここで問題になっているのは政治家とレイシスト団体との関係についてですが、それと同時に他の候補が批判することは第1回ブログ(http://antiracism-info.sblo.jp/archives/20160807-1.html )でも述べたレイシズムを「ある差異の、自分の利益のため利用」として定義することと関係します。他の候補がトランプ氏を批判するのはトランプ氏が同じ大統領予備選挙の競争相手であるからだとも言えますが、裏を返せば人種差別を利用して票を集めることを規制していると言えます。つまり大統領予備選挙という「政治空間」に「人種差別」という人種差別的・保守的な支持層の票を集める手段を持ち込むことを否定しています。

[3]詳しくはエリック・ブライシュ『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』の第5章「結社の自由と人種差別団体規制のジレンマ」を参照。

[4]このことは彼が2016年7月23日の共和党大会において「私たちには、もはや政治的正しさ(Political Correctness)だけを言っている余裕はありません」と発言したことが大きな支持を集めたことにも象徴されます。
http://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/republic3.html トランプ氏受諾演説(日本語訳全文)NHK NEWS WEBより)
(あの男が広めた流行語「PC」って何のこと?|ニューズウィーク日本版 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/01/pc.php
 これはアメリカにおける社会的規範としての「ポリティカル・コレクトネス」を狙い撃ちにして攻撃することがいわゆる“トランプ現象”において支持を集める源泉になっていることと関係があるでしょう。
posted by 反レイシズム情報センター(ARIC) at 18:16| Comment(0) | 政治家のレイシズム利用
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