2016年10月04日

〔政治家のレイシズム利用〕ケース1 和田政宗 参議院議員 第5回

 前回まで4回に渡って参議院議員の和田政宗氏が2013年の選挙時に対立候補である岡崎トミ子氏へのネガティブキャンペーンに使用したPVについて、それが女性差別でありレイシズムであること、「歴史否定」を含んだレイシズムであることを見てきました。

 今回からは和田氏がおこなったレイシズム煽動についてみたいと思います。

 和田氏は路上で行われるヘイトスピーチのような露骨で醜悪な言動を用いて差別を煽動することはありません。和田氏はさも論理的で整合性があるかのような丁寧な口調で差別を煽動します。

 まず、次の事例を見てください。以下の事例はレイシズムということができるでしょうか?また、レイシズムだということができるとしたらそれはどうしてでしょうか。

◯「韓国選手のゴミ捨てと浦和選手の差」

 a、具体的な発言
 和田氏は自身のブログで2016年5月4日に次のような記事を掲載しました。
http://ameblo.jp/wada-masamune/entry-12156740104.html
「韓国選手のゴミ捨てと浦和選手の差」
サッカー・アジアチャンピオンズリーグ、 韓国・浦項の選手がゴミをピッチに捨てたのに対し、浦和のGK西川選手が、ゴミを持ち帰るように注意した件。
映像を見ると韓国選手の行為は、スポーツマンシップ以前に人としてあり得ない行為だと分かる。
浦和の選手は、西川選手以外にもゴミを拾うよう指摘しているように見える。
当たり前のことを当たり前にできる浦和の選手に賛辞を贈りたい。
https://m.youtube.com/watch?v=_mn5oMc1EBk


 この記事の最後にリンクが貼られている動画は「ACL 浦和VS浦項 韓国選手、ピッチにテーピング投げ捨て (2016.5.3)」というタイトルの動画です。

 このリンクが貼られた動画の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。

 観客席から撮影されたこの動画では、韓国のチームの選手がテーピングを投げたことに対して浦和レッズの日本人サポーターがブーイングを飛ばし、
「(韓国に)帰れ」
「八百長、韓国死ね」
「北朝鮮野郎」
などと差別的な発言をしていることが記録されています。

 また動画のコメント欄には
「韓国人死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「韓国人選手しねしねしねしね」
 というような差別的なコメントが2400件以上連ねられています。[1]

 和田氏がリンクを貼った動画の中では明らかに韓国人選手への差別が行われています。

 このような明らかに差別が行われている動画のリンクを自身のブログ記事に貼る和田氏の行為は差別・差別煽動だということができるでしょうか?
 
 おそらく和田氏がこのブログについて質問されたならば、
「あくまでも浦和レッズの選手を褒め称えるもので差別する意図はない」
「日本人選手と韓国人選手のマナーの違いについて言及しただけだ」
と、答えるでしょう。

 しかし、動画を見れば和田氏が行ったことが、ただ韓国の選手を注意し、浦和レッズの選手を褒め称えているものではないことが分かります。和田氏がこの動画のリンクをブログ記事に貼ったことは明らかに差別を煽動していると言えます。

 以下でなぜ和田氏のブログ記事およびブログ記事に差別動画のリンクを貼るという行為が差別なのか、なぜ差別煽動だと言うことができるのか、またそれの何が問題なのかについて見ていきたいと思います。


b、ブログ記事の持つ意味

 何が差別で何が差別でないのかというモノサシ(定義)として日本も批准している人種差別撤廃条約を基準に和田氏のブログ記事について考えてみましょう。

 同条約第1条に照らして考えるとレイシズム(=人種差別)とは(ある特定の出自を持つグループに対する)「政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう」と、あります。

 ここで重要なのは「目的又は効果を有する」という部分です。人種差別撤廃条約の定義から考えると本人が差別する意図や「目的」がなくとも差別的な「効果」をもつものもレイシズムであるとされるのです。

 人種差別撤廃条約というモノサシ(定義)を基準に考えると和田氏のブログのような、一見ただ日本人選手のモラルを褒めているだけのようなブログ記事であっても差別を煽動している行為だと言えます。それはブログ記事が直接韓国人選手へのレイシズムを煽動するものでなくとも、韓国人選手へのレイシズム発言が登場する動画をリンクに貼るという「行為」であり、その様な「行為」自体がレイシズムの「効果を有する」ものとしてレイシズムだということができるのです。


 しかしそれだけではありません。このように和田氏の行為が一個人による差別であるということと別に、“政治家”がこのような差別をすること・差別を拡散し煽動するというもう一つの問題があります。

 なぜなら国や行政が行う差別や政治家はじめとした公人によるレイシズムは一般的に、市民によるレイシズムよりもはるかに強力に差別煽動効果を発揮するからです。(ARICの政治家レイシズムデータベースhttp://antiracism-info.com/database_home

 たとえば世界的に有名なジェノサイドである、ナチスのホロコースト、ルワンダのツチ族虐殺、関東大震災の朝鮮人虐殺では、どれも “政治家”や“国家”による差別煽動が決定的な役割を果たしていました。

 人種差別撤廃条約は政治家のレイシズム煽動を特に厳しく規制しています。その第4条の条文には「いかなる形態であれ、人種的憎悪・差別を正当化したり助長しようとする、あらゆる宣伝や団体を非難し」とありますが、続く(c)項を設け、「国や地方の公の当局・機関が人種差別を助長しまたは煽動することを許さない」として、「国や地方の公の当局・機関」による差別煽動を禁止しているのです。

 また、人種差別撤廃員会の2013年に発表された一般的勧告35「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」でも「特に懸念すべき」ものとして「特に上級の公人によるものとされる発言」をあげています。
http://www.hurights.or.jp/archives/opinion/2013/11/post-9.html

 このように考えると和田氏の今回のブログ記事は差別であるだけでなく明確な差別煽動であり、今回のブログのようにその差別を拡散しようとすることは許されないでしょう。

 なお、欧米では政治家が差別と疑われるような発言をするだけで社会的な批判が市民社会の側から発せられ一種の政治問題になる状況があります。[2]つまり差別禁止法制が整備された欧米では、政治家が差別することがご法度なのは(すくなくとも建前は)当たり前で、むしろ「自分がレイシストではない」ことを常に有権者の側に証明しないといけない状況があるといえます。欧米ではむしろ今回の動画をとりあげるような場合は政治家である和田氏の方が「このような差別はいけない」と動画内の差別を非難しなければいけない立場にあります。もし差別が起きた現場に居合わせたり、差別発生を知ったりしたときは、その差別を批判しなければ政治家生命が危うくなる事態さえ普通に起きると言えます。


c、レイシズムの「見えづらさ」

 今回の和田氏のブログは明らかにレイシズムを煽動しているのに、全くと言っていいほど批判されません。確かに和田氏は直接、醜悪な言動で差別をしているわけではありません。むしろ、日本社会で「差別だ!」と言われるような露骨な差別発言はしないように気をつけているように見えます。和田氏が何の批判もなく差別を続けることができるのは、日本社会におけるレイシズムの「見えにくさ」と関連があると言えます。

 現在、路上で行われる形のヘイトスピーチは社会的に許されないものとして批判の対象となっています。しかし、和田氏のブログも同じレイシズムであるのにもかかわらず全くと言っていいほど批判されません。これがレイシズムの「見えにくさ」の一例です。

 前回のブログでも書いたように(http://antiracism-info.sblo.jp/article/176974425.html )日本には「反レイシズム」規範がありません。何が差別で何が差別でないのかというモノサシ(定義)がないことがレイシズムの「見えにくさ」につながっており、それが和田氏のような姑息な差別煽動を許していると言えます。

 今回は「反レイシズム」規範ゼロの日本におけるレイシズムの「見えにくさ」について考えました。

 次回も和田氏が行った差別事例を取り上げ考えたいと思います。


_________________________________

[1]
 浦和レッズに関してはこれまでもサポーターの差別言動が問題になってきました。
 2014年3月8日の試合において「JAPANESE ONLY」という差別的な横断幕を掲げたことに対し非難がおきていました。これに対し球団の公式サイトでサポーターを処分するなどの対応をしています。
http://www.urawa-reds.co.jp/topteamtopics/3月8日Jリーグ浦和レッズ対サ/
 また、それ以外にもサポーターによる差別的行為が繰り返されており、球団側がサポーターに呼びかけるなどして「差別撲滅宣言」を出しサポーターや選手へ注意喚起を呼びかけています。
http://www.urawa-reds.co.jp/clubinfo/差別撲滅宣言について/
 つい最近では浦和レッズのサポーターが鹿島アントラーズに所属するカイオ選手に対してTwitter上で黒人差別する書き込みをしました。この問題に対しても浦和レッズ側はサポーターと面談してカイオ選手に謝罪させるなどの対応をしています。
http://www.asahi.com/articles/ASJ6J7764J6JUTQP02H.html


[2] 和田氏との比較のために「反レイシズム」規範のある海外における政治家とサッカーとレイシズムの事案を紹介します。ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の副党首であるアレクサンダー・ガウラント氏がサッカードイツ代表で、ガーナにルーツを持つジェローム・ボアテング氏に対して「ボアテングがいいサッカー選手なのはみんな知っているが、誰も彼の隣で暮らしたいとは思わない」と発言したことに対して人種差別であると非難が集まっていました。この件についてAfD は2016年5月29日に謝罪を行いました。(「独右派政党幹部が人種差別か、ボアテングを『隣人にしたくない』AFPBB News http://www.afpbb.com/articles/-/3088744
 このように海外においては政治家が差別発言をしたことに対して政治家側が「レイシストではない」ことを表明しないといけないのです。
 また、同時に重要なのは発言した本人は発言を否定しているのにもかかわらず政党が謝罪を行ったということです。それだけドイツ社会における反レイシズム規範が強く、いくら本人が「差別ではない」と弁明しても社会的な規範としてそれを許さないということがわかるでしょう。


posted by 反レイシズム情報センター(ARIC) at 12:14| Comment(0) | 政治家のレイシズム利用
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