2016年06月23日

小坪慎也市議「外国人の税制優遇」徹底批判 第4回 小坪慎也市議が根拠に挙げる2013年度会計検査院の検査報告は何を言っているのか?

第四回も引き続き、福岡県行橋市の小坪慎也市議のヘイトスピーチを扱います。
※これまでの記事はこちら。
 第一回「被扶養者の人数が違う「外国人世帯」「日本人世帯」
 第二回「「外国人の税制優遇」シミュレーションの検証
 第三回「外国人は扶養控除を取りやすいのか?

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 前回のブログでは、「外国人に税金を格安にするカラクリがある」という小坪慎也市議の主張を検証した。そして、その結果、小坪慎也市議が市議会議員を務める福岡県行橋市での市県民税の徴収業務では、収入や扶養・被扶養の状況の把握が完全に行えているわけではないこと、それは「日本人」か「外国人」かには全くかかわりがないこと、さらにその原因の一端が自治体の人員削減にあるということを明らかにした。つまり、「外国人」だけが税制上の不正をし放題になっているという小坪市議の主張は、足元の行橋市についても成り立っていなかったのである。

 しかし、小坪慎也市議が「外国人に税金を格安にするカラクリがある」とする自説の正当性を示す強力な証拠として、2014年に会計検査院が行った『日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』*1という検査の報告書を用いている。

 小坪慎也市議はこの報告について、国の会計検査院が「外国人の国外扶養親族について、会計検査院が調査した結果が公表」したものと言い、さらには「扶養控除の申告額が300万以上の外国人(または配偶者)を調査したところ、9割が国外に居住する親族を扶養し、扶養控除を受けていました。また、国外扶養者では、平均10.2人もの扶養をとっていることが発覚しました。このような人数は日本人では不可能です。」と言い切っている(『行橋市議会員 小坪しんや』2016年,青林堂 p.132 ll.8−p.133 l.1。太字の強調は引用者)。

 実は、上の小坪議員の引用を太字で強調した箇所はウソだと言ってよい。そもそもこの会計検査院報告は「外国人」のみを対象にしたものでは全くない。

 このことについて論ずるのは次回以降とする。

 その前の作業として、今回はこの会計検査院の検査報告が何を言っているのかを説明したい。


1.会計検査院の検査報告の概要

 会計検査院の報告は、2012年度分の所得税の徴収に関して、確定申告書等での扶養控除の申告額等が300万円以上となっている納税者1,576人について検査したものだ*2。

 そして、所得税で扶養控除が適用される者1,554人*3 についてその国籍をみると、確定申告書等に添付された在留カード等により納税者が外国人〔外国籍〕であることを確認できた者が542人、「日本人と思料される者」が942人(うち、配偶者が外国人であると確認できた者は761人)、不明の者が70人であったという。

 そして、上記1,554人のうち、扶養控除適用額があり、控除の対象となる扶養親族全員の居住国・地域が確認できた納税者は1,426人であった。その9割に当たる1,296人が国外に居住する親族を扶養していたという。上記1,426人の被扶養親族のうち日本国内に居住する親族が1,264人、国外に居住する親族が12,786人の計14,050人であった*4。

 また、国内に居住する親族のみを扶養の対象としている者を「国内扶養者」、それ以外の者(国外に居住する親族を一人でも扶養している者)を「国外扶養者」*5 として、比較した結果として、以下の点を指摘している。

@ 納税者一人当たりの扶養親族の平均人数は、「国内扶養者」は平均5.9人だったのに対し、「国外扶養者」の平均は、10.2人であった*6。

A 納税者の配偶者の兄弟姉妹やおじ・おば、を扶養しているとする者が「国内扶養者」では1.0%だったのに対し、「国外扶養者」では57.6%であった*7。

B 扶養成年層(23歳以上60歳未満の者)である被扶養者は「国内扶養親族」では9.6%だったのに対して、「国外扶養親族」では57.6%であった*8。

C 多数の「国外扶養親族」を扶養控除の対象としていることにより、所得税が課税されていない者が多数見受けられた*9。

D 「国外扶養親族」について、続柄証明書類や送金証明書類が税務署に提出されていなかったり、提出されていても、書類がくわしく書かれていなかったりしていて、被扶養者の存在や送金の実態を税務署が十分に確認できない状況があった*10。

 これらの点は小坪慎也市議が著書『行橋市議会員 小坪しんや』(2016年,青林堂)の中で指摘しているポイントと概ね重複している*11。ただ今回は、会計検査院の検査報告の問題点に的を絞るため、小坪議員の主張の問題については、次回以降検証することにしよう。


2.会計検査院の検査報告の問題点と小坪慎也市議への反論

 上記の検査報告の概要を見てどう思われただろうか? 会計検査院の検査報告の記述だけ見れば、「外国人」は「日本人」と比べて扶養控除をたくさんとっており、その扶養控除が不正なものであると錯覚してしまうかもしれない。だがそれは錯覚だ。

 第一に、そもそもこの会計検査院の検査は、扶養控除の申告額等が300万円以上と多額になっている納税者を対象にしたものであることに注意しよう。外国人を対象に絞ったものでは全くない。

 第二に、その上で「国内扶養者」と「国外扶養者」に分けて様々な点について比較・分析を行っている。だがこの「国内扶養者」と「国外扶養者」とは何か。
 
 じつは「国内扶養者」と「国外扶養者」という用語は、所得税法上に存在しない用語であり、会計検査院が恣意的に設定したカテゴリーである*12。「国内扶養者」とは、「国内扶養親族」のみを扶養控除の対象としている納税者であり、「国外扶養者」とは、「国外扶養親族」も扶養控除の対象としている納税者(国外扶養親族のみを扶養控除の対象としている納税者を含む)だと書いてある。その「国内扶養親族」と「国外扶養親族」という用語も実は所得税法上には存在しないのだが*13、会計検査院の検査報告では、それぞれを「国内に居住する控除対象扶養親族」と「国外に居住する控除対象扶養親族」のことであると書いている*14。

 つまり、「国内扶養者」と「国外扶養者」という用語は、会計検査院の定義に従うならば、単に日本国外に居住している被扶養者がいるかどうかを表すに過ぎない。「国内扶養者」とは、日本国内に居住している者のみを扶養している者を指すのだから、その中には、実は日本に居住する「外国人」(外国籍者及び外国にルーツを持つ者)が含まれる。また、逆に「国外扶養者」とは、それ以外の者(国外に居住する親族を一人でも扶養している者)を指すのだから、留学生の親などかなりの「日本人」や「日本に居住する被扶養親族」が含まれることになることにも気づくだろう。

 前述の通り、小坪慎也市議は、この会計検査院の検査報告は、「外国人の国外扶養親族について」検査した報告書であると述べているが、『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』において、この検査が「外国人」を対象としているとは書かれていない。検査の対象となったのは、あくまで「扶養控除の申告額等が300万円以上と多額になっている納税者1,576人」であり、その中には、「日本人」も「外国人」も含まれている。また「国内扶養者」、「国外扶養者」という用語が、「日本人」「外国人」という国籍や人種・民族の別とは全く無関係なのだ。

 したがってこの報告を使って外国人に特権があるなどと言うことはできないのである。

 この報告にはだが、ほかにも問題がある。

(続く)

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*1『行橋市議会員 小坪しんや』2016年,青林堂 p.132 l.8−p.133 l.1
「私のブログを読まれている方はご存じかと思いますが、外国人の国外扶養親族について、会計検査院が調査した結果が公表されています。会計検査院とは三権から独立した国の機関の一つであり、すべての監査を行います。会計検査院による調査とは、国による調査と言ってもいいでしょう。その結果でありますが、恐るべきものがございます。
 扶養控除の申告額が300万以上の外国人(または配偶者)を調査したところ、9割が国外に居住する親族を扶養し、扶養控除を受けていました。また、国外扶養者では、平均10.2人もの扶養をとっていることが発覚しました。このような人数は日本人では不可能です。」
 小坪慎也市議がブログで紹介しているのは、「平成25年度決算検査報告の概要」、つまり、簡易版の報告である。(小坪しんやのHP〜行橋市議会議員 https://samurai20.jp/2014/10/g-huyou/ より)
 より詳しい検査報告は、会計検査院検査報告データベースを参照。(会計検査院検査報告データベース,平成25年度,第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等, 第3節 特定検査対象に関する検査状況,『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』 http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm

*2 「扶養控除の申告額等が300万以上」となっているため、実際に300万以上の扶養控除が適用されたのかどうかは定かではない。

*3 確定申告書等での扶養控除の申告額等が300万円以上となっている納税者1,576人のうち、扶養控除適用額がない(扶養控除以外の所得控除を適用した時点で課税される所得金額が0円となる)者が22人いた。

*4(『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』, 3 検査の状況,(1) 扶養控除の適用状況,ア 控除対象扶養親族の状況, http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm
「上記扶養控除の申告額等が300万円以上と多額になっている納税者1,576人に係る扶養控除適用額(注3)は、計51億4743万余円であった。このうち、所得税額の計算において扶養控除適用額がない納税者22人を除く1,554人についてその国籍をみると、確定申告書等に添付された在留カード等により納税者が外国人であることを確認できた者が542人、日本人と思料される者が942人、不明の者が70人であった。また、上記の日本人と思料される942人のうち、配偶者が外国人であると確認できた者は761人であった。
(注3)扶養控除適用額  所得金額に扶養控除以外の所得控除を適用したその残額から更に控除できる扶養控除の額
上記1,554人のうち控除対象扶養親族全員の居住国・地域が確認できた納税者1,426人が申告した控除対象扶養親族は、国内扶養親族が1,264人、国外扶養親族が12,786人(居住国・地域別の内訳は、フィリピン共和国8,342人、ブラジル連邦共和国1,330人、中華人民共和国821人、その他の国・地域2,293人である。)の計14,050人であった。
そして、上記1,426人のうち、国内扶養親族のみを扶養控除の対象としている納税者(以下「国内扶養者」という。)は130人であったのに対して、国外扶養親族も扶養控除の対象としている納税者(国外扶養親族のみを扶養控除の対象としている納税者を含む。以下、これらの納税者を「国外扶養者」という。)は1,296人と、全体の9割を占めていた。そして、納税者一人当たりの控除 対象扶養親族の人数についてみると、 図1のとおり、11人以上となっているのは国外扶養者のみであった。また、国内扶養者では平均5.9人であるのに対して、国外扶養者では平均10.2人と多い傾向にあった。」

*5 「国内扶養者」と「国外扶養者」の定義については、本文2.会計検査院の検査報告の問題点を参照。

*6 (『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』, 3 検査の状況,(1) 扶養控除の適用状況,ア 控除対象扶養親族の状況, http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm
「そして、納税者一人当たりの控除対象扶養親族の人数についてみると、図1のとおり、11人以上となっているのは国外扶養者のみであった。また、国内扶養者では平均5.9人であるのに対して、国外扶養者では平均10.2人と多い傾向にあった。」

*7 同上
「また、前記の1,426人が申告した控除対象扶養親族14,050人について納税者との続柄をみると、図2のとおり、納税者の配偶者の兄弟姉妹等である二親等の姻族及び配偶者の叔父、叔母等である三親等の姻族が、国内扶養親族では計13人と国内扶養親族全体の1.0%にとどまっているのに対して、国外扶養親族では計7,368人と国外扶養親族全体の57.6%を占めていた。」

*8 同上
「さらに、上記の控除対象扶養親族14,050人について24年12月31日時点の年齢をみると、一般に我が国では就労していると思料される23歳以上60歳未満の者(以下「扶養成年層」という。)の国内扶養親族又は国外扶養親族全体に占める割合が、図3のとおり、国内扶養親族では9.6%(1,264人中122人)と低いのに対して、国外扶養親族では57.6%(12,786人中7,368人)と高くなっていた。」

*9 (『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』, 4 本院の所見,
http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm
「ア 国外扶養者は、国内扶養者と比較して、納税者一人当たりの控除対象扶養親族の平均人数が多く、納税者からみて二親等の姻族及び三親等の姻族並びに扶養成年層を扶養しているとする者も多数見受けられた。また、多数の国外扶養親族を扶養控除の対象としており、国外扶養控除適用額が多額に上ることにより所得税が課税されていない者が多数見受けられた。」

*10 同上
「イ 国外扶養親族については、続柄証明書類及び送金証明書類が税務署に提出されていなかったり、提出されていても、国内扶養親族の場合と異なり申告した年における控除対象扶養親族の生存の有無及び住所を確認できなかったり、納税者の友人等の第三者を通じるなどして現金を手渡したとしている申立書のみが提出されていて送金の事実を確認できなかったりなどしていて、控除対象扶養親族の要件を満たしているかについて税務署が十分に確認できない状況となっていた。そして、国外扶養控除適用額と比較して、国外扶養親族への送金額が相当下回っており、担税力が減殺された分を相当上回る国外扶養控除適用額になっていると思料される者も多数見受けられた。」

*11 『行橋市議会員 小坪しんや』(2016年,青林堂) p.132 l.7-p.134 l.1 p.145 l.5-p.147 l.10

*12 所得税法 法令データ提供システム http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S40/S40HO033.html

*13 2015年の所得税法改正により、所得税法第194条5項で「国外居住親族」という言葉が使われるようになった。この言葉は「国内扶養親族」とほぼ同義である。しかし、所得税会計検査院が『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』という報告書を作った2014年度には、まだこの言葉は所得税法上に存在しなかった。
(財務省, 第189回国会における財務省関連法律,所得税法等の一部を改正する法律案新旧対照表,p.51(ページの上段が改正案、下段が改正前の所得税法である。法案は2015年3月31日に成立。), http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/189diet/st270217s_01-03.pdf

*14 (『第2 日本国外に居住する控除対象扶養親族に係る扶養控除の適用状況等について』, 1 検査の背景,(3) 扶養控除の適用手続, http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm
「このため、税務署は、国内に居住する控除対象扶養親族(以下「国内扶養親族」という。)については、必要に応じて、市町村等から国内扶養親族の住民票を取り寄せたり、市町村等が保有する給与支払報告書等を調査したりなどして、控除対象扶養親族の要件を満たしているかを確認している。一方、国外に居住する控除対象扶養親族(以下「国外扶養親族」という。)については、納税者の協力を得て、出生証明書等の控除対象扶養親族の氏名、生年月日、納税者との続柄等を確認できる書類(以下「続柄証明書類」という。)及び送金依頼書等の送金の事実を確認できる書類(以下「送金証明書類」という。)の提出又は提示を求めている。」
posted by 反レイシズム情報センター(ARIC) at 19:20| Comment(0) | 「税制優遇」徹底批判
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